Hana’s Note
AIモデル比較ガイドで見た性能の数字は、どうやって比べられているんだろう? 同じ点数でも、道具や試行回数が違うと意味も変わる。ここでは、その数字の奥にある条件を一緒にほどいてみようにゃ。
ベンチマークとは何か
ベンチマークは、決められた問題と採点方法を使い、ある条件でAIがどの程度できたかを確かめる評価です。AIの健康診断に少し似ています。視力検査の数字だけで体全体を説明できないように、一つの試験は一つの能力しか測りません。
この記事で扱う数字は、モデル単体の普遍的な強さではなく、モデル、設定、ツール、試行回数、実行環境を含む一つの構成の結果として読みます。
比較メモ
- 最終確認: 2026-08-16(JST)
- 評価対象: 公開ベンチマークと、その評価方法・利用条件
- 検証状態: 各ベンチマークの公式資料・論文と、元記事で参照した公開評価を確認
- 対象外: 特定のモデルの恒久的な総合順位、日本語文章品質の独自人間評価
なぜ性能比較が難しいのか
独立評価機関Artificial Analysisの2026年8月16日時点の複合指標v4.1.1では、Claude Opus 5のmax設定が63、Claude Fable 5のフォールバック込み構成が62、GPT-5.6 SolとGrok 4.6の高推論設定がともに61でした。差はありますが、これだけで実利用の勝者を決められる幅ではありません。
この指標は、エージェント34%、コーディング24%、科学24%、一般能力18%という重みで9種類の評価をまとめたものです。英語・テキスト中心で、料金、速度、日本語の書き味、製品の使いやすさは含みません。さらにmaxやhighは通常より多く推論する設定で、Fable 5の値は安全分類後に別のClaudeで再試行する設定を含み得ます。つまり、数字はモデル名だけでなく、設定を含む一つの構成を表しています。
Gemini 3.7 Flashも独立複合指標へ追加され、high設定で56でした。ただし、公式文書の更新から3日しかたっていない時点の値です。一つの初期スコアだけで、文章、画像、製品機能を含む総合順位は決まりません。 新しいモデルほど、実利用の評価が蓄積するまで慎重に読みます。
代表的なベンチマークが測るもの
| 名前 | 主に測ること | 数字を見るときの注意 |
|---|---|---|
| GPQA Diamond | 物理・化学・生物の難しい選択問題 | 198問の固定セット。実際の研究や文献確認ではない |
| Humanity’s Last Exam | 多分野の非常に難しい短答・選択問題 | 検索やコードなど、ツールの有無で別の条件になる |
| SWE-bench系 | 実リポジトリのissueを直せるか | モデル、エージェント、テスト環境をまとめて測る |
| Terminal-Bench | ターミナルで複数手順の作業を終えられるか | 環境、時間、権限、外部依存に敏感 |
| BrowseComp | Webから見つけにくい短い答えを探せるか | 長文の調査品質や引用の正しさ全部は測らない |
| OSWorld | 実アプリの画面操作を終えられるか | 画面・ツール・OS環境の影響が大きい |
| LM Arena | 二つの匿名回答のどちらを人が好むか | 好みであり、事実の正しさだけの順位ではない |
| MMMU-Pro | 図表や画像を含む大学レベルの問題 | 選択式で、画像の渡し方やツール有無が効く |
Artificial Analysisのような横断評価は、複数の試験をまとめて比較する手がかりになります。ただし、何を何割で重み付けしたか、各試験がどの構成を測ったかを確認しなければ、単一の「知能指数」として扱うことはできません。
pass@1とpass@kは違う
pass@1は最初の一回で成功する割合です。pass@kは複数回試したときに一度以上成功する可能性を見る指標です。5回挑戦できるAIと、1回だけのAIを同じ数字として比べることはできません。
たとえば数学コンテストAIMEは1年15問です。1問違うだけで約6.7ポイント動くため、年度、試行回数、コード利用の有無が違えば、小さな差は簡単に入れ替わります。
モデル評価とエージェント評価は別に考える
コーディング評価では、AIがリポジトリを読み、コマンドを実行し、テストで失敗を見つけ、修正を繰り返します。この仕組みをagent harness(エージェントを動かす枠組み)と呼びます。
同じモデルでも、使えるコマンド、テスト時間、ファイル権限、試行回数が違えば成績は変わります。各社の発表表には異なるハーネスやフォールバックを使った値が混ざることがあるため、数ポイントの差をモデル単体の差だと読むのは危険です。
これは、エージェント評価が役に立たないという意味ではありません。コード修正やPC操作のように、実際にツールを使う仕事では、モデルだけでなく環境を含めて測る必要があります。記事や発表を読むときは、「モデル単体の評価か」「エージェント全体の評価か」を先に分けます。
数字を過信できない理由
公開テストには、飽和と混入の問題があります。SWE-bench Verifiedは、実際のGitHub issue 500件を人手で検証した重要なコーディング評価でした。しかしOpenAIは2026年、frontierモデルの比較には使わないと表明しました。失敗例の監査でテスト設計上の問題が多く見つかり、公開データへの過学習や飽和も比較を難しくしたためです。
これは「ベンチマークが無意味」という話ではありません。測定器にも有効な範囲と寿命があり、難度やデータを更新し続ける必要がある、という例です。
Web調査でも、BrowseCompで高得点だからといって、引用先が主張を支えるか、論文と解説記事を区別できるか、最新日付を確認できるかは別の作業です。科学問題のGPQAやHLEで高得点でも、新しい研究を正しく評価したことにはなりません。論文の実在、該当箇所、計算、実験条件を人間が確認します。
自分の仕事で確かめる小さなテスト
公開ベンチマークより、自分の課題に近い小さな評価のほうが役立つことがあります。
- 実際によく行う課題を3〜5件選ぶ。
- 個人情報や機密情報を除き、同じ指示を各候補へ渡す。
- モデル名を隠して、人間が結果を評価する。
- 正確さ、修正量、完了時間、費用を記録する。
- 正解がない文章では「好き」だけでなく、目的を満たすかを見る。
- 難しい課題は別のAIまたは一次情報で検証する。
Limitations and what may change
- ベンチマークの問題、採点、公開条件、実行環境は更新される。
- 独立複合指標も、採用した課題と重みによる一つの見方である。
- 公式発表のベンチマークは一次情報だが、提供者自身の測定であり、他社の異なる表と直接比較できない場合がある。
- 日本語文章、引用品質、長文検索について、この記事独自の人間A/B評価は行っていない。
Summary
ベンチマークは能力の一部を測る道具です。数字を見るときは、何を測る試験か、モデル単体かエージェント全体か、ツール・試行回数・設定は同じかを確認します。
モデルを選ぶときは、主要AIモデル比較ガイドで用途を絞り、料金も必要ならAIモデルの料金比較とAPIコストの考え方で別に確かめてから、自分の課題で小さく試します。
あわせて読む
Related links / References
- 今、どのAIモデルを選ぶべき?主要AIモデル比較ガイド
- AIモデルの料金比較とAPIコストの考え方
- Artificial Analysis models
- Intelligence benchmarking methodology — Artificial Analysis
- GPQA paper
- Humanity’s Last Exam — Center for AI Safety
- Why we no longer evaluate SWE-bench Verified — OpenAI
- LiveCodeBench
- Terminal-Bench 2.1
- BrowseComp — OpenAI
- OSWorld
- Chatbot Arena
- MMMU-Pro paper